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神戸の住宅遺産を巡る旅2日目 塩屋

さて、神戸2日目は、前日岡本の洋館で出会った、住宅遺産トラストの信森さんに案内していただいて、塩屋の町を巡る旅。
塩屋は、かつては山間の小さな漁師町でしたが、イギリス人のジェームスさんが開発し、外国人向けの洋館が建てられ、いまでも当時の面影を残す、不思議な町です。有名どころでは、サッカー日本代表の香川真司の出身地です。

お目当ては、個人の方が承継し、維持運営している洋館、旧グッゲンハイム邸。

山と海に挟まれた帯状の狭い土地に、3本の電車がくっついたり離れたり、絶妙な距離感を持って走る神戸。三ノ宮から塩屋に行くにも、山陽電鉄とJRの2路線があります。放射状に広がる東京の鉄道では珍しい環境です。

今回は、須磨の海岸沿いを見てみたかったので、JRを利用しました。

10時半にJR塩屋駅で信森さんと待ち合わせですので、9時44分に神戸三宮駅を出発。
途中、須磨海岸辺りから、車窓の景色は海と空の青一色に。

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10時04分に塩屋に到着です。
山と海に挟まれたJR塩屋駅。磯の薫りがしました。

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六甲山の西端に位置し、北側に六甲山とジェームズ山、そして南側に海という地形は、淡路島から紀淡海峡まで見渡せる絶景で、外国人や財界人の別荘地として、人気を博したそうです。

山と海に囲まれたすり鉢状の地形は、細い路地や坂が多いため、外部からの開発の波もさほどではなく、洋館の多い当時の町並みを色濃く残してこられたようです。

駅の改札に掲げられていた塩屋の町歩きマップ。くねくねした細い道が多そうで、どういった出会いがあるのかワクワクします。「制作:塩屋商店会」と、地元の人々の町を愛する気持ちが伝わります。

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信森さんの案内で、塩屋を堪能してまいります。想像していた以上に路地や坂道が多く、少し歩くと表情が変わる町角の妙に、心をときめかせながらのお散歩。塩屋谷川の護岸工事のことや、町に残る洋風住宅のこと。歴史や文化など、興味深いお話を聞きながらのお散歩は、日差しや傾斜を忘れさせてくれるほどです。

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ちょうど七夕の季節で、商店会手造りの七夕飾りが塩屋谷川を彩っていました。

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駅前の商店街と豆腐屋さん。田仲とうふは、地元の小学生が考案した「とうふスティック」を商品化するなど、元気な親父さんという雰囲気。お店の隣の2階をDIYで改装中だそうで、わざわざ中を見せてくれました。

駅前の道から車が通れない細い路地が石垣や建物の間を、分かれたり出会ったりしながら走り、車と人との領域がしっかり分けられていました。

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前半のメインイベント「ジェームス邸」です。神戸で生まれ育ったイギリス人貿易商のアーネスト・ウィリアム・ジェームスの私邸として、1934年(昭和9年)に竹中工務店の設計・施工で建てられました。

ジェームス氏が買い取り、外国人のために開発した丘陵の住宅地「ジェームス山」のシンボル的な存在です。門、従業員の居住棟、本館、四阿と、当時の風情を残す希少な建物です。

こちらは門です。石張りの門柱に、スペイン瓦の切妻屋根を乗せた、和洋折衷の趣。

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門を潜ると、左手に従業員の居住棟。運転手が住んでいたとか。こちらもスペイン瓦葺き。

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右を見ると本館の車寄せ。建物が木に隠れているため、自然と車寄せに目線が集中します。手前の緑と車寄せを通して見える奥の緑が、青い空をキャンバスに、遠近感の中に車寄せの小さな姿が浮き上がるような演出を考えてのことでしょうか。

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車寄せを抜けて庭に回り、見返ってみた本館。庭の手入れの日と重なって、トラックが停まっていたのが写真的には残念ですが、それでも圧倒的な存在感が分かります。

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海に向かって広がる芝生の庭と、現在の運営会社が新設した、ガラス張りのチャペル。下は当時からの四阿。

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庭の端からの眺め。素晴らしい景色を前にすると、人はなぜか沈黙します。言葉が口から出ないだけで、心との対話が始まるからかもしれません。

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余談ですが、ジェームスさんは塩屋に住む人々のライフスタイルにも大分影響を与えたようで、塩屋の人は、アフタヌーンティーを愉しむ文化があるとか。これは、ジェームス邸に何かと出入りをしているうちに、ジェームス家のライフスタイルが自然と定着していったからだそうです。

町で出会った根っからの塩屋っ子のお婆さんも、「珈琲より紅茶よ」と誇らしげでした。

素晴らしい建物と素晴らし景色を堪能し、午後のイベントに備え昼食を摂るため、一旦山を下り、駅に向かう事にしました。駅までの道も風情があります。

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お昼は、信森さんお勧めの、駅前の定食屋「しろちゃん」で。
手書きのメニューにバラエティ豊かな料理が並ぶしろちゃんは、ついつい長居してしまいそうな居心地のよいお店でした。こういう店にお馴染の、背もたれの低い椅子に座り、決して広くないテーブルに向かい合ってビールを傾けると、お互い旧知の間柄のような心持になり、心ある会話が楽しめます。

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本当は、もっとゆっくりしていたかったのだけど、時間に限りがあったので、ビール一杯でお店を出て、午後のメインイベント、グッゲンハイム邸に向かいます。

目的地にまっすぐ行かないのが、嬉しいところ。寄り道し、塩屋の町を一望できる絶景ポイントを教えてくれました。正面にジェームス山が見えます。山に囲まれたすり鉢状の地形がはっきり読み取れます。

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分かれたりくっついたりしながらが、石垣や住宅、植込みの間を通る路地は、時には坂に、時には階段にと形を変え、様々な景観ポイントに自然に導いてくれます。

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こういう住宅がそこかしこに。大抵は細い路地に面して、石垣と植栽があり、そして緑を大きく超えない高さで、外観や形状は多様ながらも、町並みという大きな枠組みで整っていて、歩いてみているだけのただの散歩なのですが、自然に、どんどん自分も町の一部になったように感じ、心地よかったです。

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お目当ての旧グッゲンハイム邸は、こういう路地を下りて行ったところにあるとか。
線路に向かって下りてゆく信森さん。路地に魅せられ、写真を撮りながら後からついてゆく私。階段下の踏切で立ち止まり、こちらを振り返る信森さんと専務。

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あっ、遮断機下りちゃった!と思い、駆け足で、
「すみません、お待たせしてしまって。」
「大丈夫です。さぁ着きました。こちらです。」
「あの~~、踏切しか見えないんですけど。。。」
「こちらです。」と植木に消えてゆく信森さんと専務。

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えっ?こんなところに入口???

折れ釘のような角度に現れた5段の石段を上ると、小さな門扉があり、そこから広い庭の隅を、飛び石がまっすぐ続いています。

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灯篭と庭石の和風庭園の先に、コロニアル様式の建物が鎮座しています。

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旧グッゲンハイム邸のホームページによりますと、

神戸・塩屋の海を臨む旧グッゲンハイム邸は、明治大正期に神戸に滞在したドイツ系の貿易商の家族にその名を由来します。コロニアル・スタイルの洋館は、1909(明治42)年にアレクサンダー・ネルソン・ハンセルの設計で建てられたと考えられ、グッゲンハイム家はこの地を”Pines” Shioyaと呼び、1915(大正4年)までの6年あまりの間ここに暮らしていたようです。その後、複数の所有者を変遷しましたが、地震にも台風にもめげず、取り壊しの危機をも逃れて、海を臨んで建ち続けて100年が経ちました。

とあります。2016(平成28)年現在では107年。

1909年は、日露戦争の5年後。取り壊しの危機に、現在の所有者が私財で購入し、結婚式やイベントなどの会場として貸し出し、運営しているそうです。

所有者で運営者の森本アリさんは、信森さんともお友達で(旧ジョネス邸の保存活動を一緒に携わっていたとか)、建物内も快く見せてくれました。

内部装飾や景色など、当時から大きく変わっていないんだろうなと思わせる、貴重な建物です。

森本アリさんが少しずつ手を入れて、今の状態にしたそうですが、私人で続けていくには、なかなか大変なこともあるとか。

歴史的建物を引継ぐにあたっては、「修繕方法や費用」、「水道光熱費などのランニングコスト」、「生活設備(お風呂やキッチンなどの水回りが前近代的)、インターネット環境への対応」など、整えて引継いでいかなければいけない情報もありそうです。

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応接室では、ピアノのお教室の前に少しだけ時間をいただきました。

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南傾斜地の多い塩屋では、オーシャンビューの取り合いで、開発の時には海側にビルが建ち、山側にある建物は景色を奪われがちだとか。2013年には、ほぼ駅前の海沿いにあった「旧ジョネス邸」は、解体されマンションに変わりました。。。ここは、六甲山の西端が海ぎりぎりまでせり出しているため、目の前の土地が狭く、国道と鉄道分のスペースしか取れなかったことが、幸いしたようです。

以前、このブログの「景色はだれのもの?」でも書きましたが、どうしても、当事者となる土地以外からの景色については気が回らなくなってしまうもの。気づかないうちに、他者の日常の楽しみや思い出を切り取っているなんてこともありますね。一度振り返って、他者の視点でその土地や建物を見る時間を持つのも、気遣いだなぁなんて考えてみました。
まぁ、環境についてのことだけではありませんね。

帰りの飛行機の時間もありましたので、後ろ髪をひかれながら、信森さんと盃ならぬ、アイスティーで別れを惜しみ、電車に飛び乗って神戸空港へ。

振り返ると、夏の日差しの中、坂道をよく歩いたなぁと思いますが、信森さんから塩屋の文化や将来に向けての町の在り方などを聞いていると、時間も疲れも忘れ、とても濃い一日でした。

「住宅は個人財産であると同時に、社会の財産でもある」という考え方は、現実にはなかなか難しいところですが、文化的に生きるという側面からは、とても大切で、根底に持ち続けていきたい考え方だなと思います。

信森さんや森本さんが関わっている、塩屋まちづくり推進会で作った、ほぼ手作りの塩屋見聞録。
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余談ですが、「塩屋の山と海に囲まれたすり鉢状の狭い土地に、斜面を網目のように走る路地」。どこかで見たなぁと思ったら、神奈川の真鶴でした。
デザインコードが似ているとかで、真鶴の方も視察に来るそうです。同じような傾斜地の住宅街で、高齢者が増えていく状況も似ているとか。コミュニティタクシー導入などの情報交換も行っているようです。

帰京してから、真鶴に早速行ってきました(笑)

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やっぱり似てるなぁ。

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